———あるダンピールの少女の手記———

 『異端』って、なんだろう。

 私は所謂ダンピール。つまりはヴァンパイアと人間の間に生まれた子だ。
父は純血のヴァンパイア。あの種族の中では位が高い存在らしい。
母は人間。普通の町娘だったそうだ。

父の名はノワール=レス=アルカーナ。母の名は白鳥深雪。
西洋出身の父、かたや、日本出身の母。一見、接点がないような二人なんだけど
どのように巡り会ったのか…。

現在は私も含め、日本で暮らしている。

 父に聴いたところによると、母に出会ったのは15世紀末のルーマニアだったらしい。
…何を言ってるんだろうこの人は。母は人間なのにそんなに長生きするわけない
と思った。でもよくよく聞いてみると、出会ったのは母の前世のようだ。

中世の欧州ではペストの流行と同時期に、吸血鬼や、魔女などが横行しそれはそれは凄惨な異端者審問がまかり通っていたそうな。

そんな時代に、二人は出会った。

 父さんは旅の途中、ある寒村に立ち寄った。その村で母さんに出会い、
度々顔を合わすようになりよく会話をするようになったらしい。

 彼女はちょっと変わっていたそうだ。
どういう風に変わっていたのかというと。あの時勢、寒村の夕暮れ時に訪れる見知らぬ旅人は魔性ではないかと思われ敬遠されがちなのだが(実際、父さんは魔性だったわけだが)臆することなく話しかけてきたとか。

更に「異端とはなんぞや」とまでこぼしていたらしい。

現代では異端の定義は『正統から外れていること、また、その時代に多数から認められているものに対して、例外的に少数に信じられている宗教・学説など』となっているけれども。

当時は世界的に疫病が流行り、人は正常さ、そして倫理的に…冷静さを欠いていた。
他人と思想が違っていたり、少しでも魔女と思われでもしたら冤罪でも裁判にかけられた、そんな時代。
村民には彼女は変わり者と思われていて…ついには魔女裁判で処刑されてしまった。

 父さんはその時大層、人間を憎んだそうだ。
…とどのつまりは、父さんは彼女と逢瀬を交わすうちに、彼女を好ましく思っていた。
夜の眷属の仲間に加えようかと思い始めていた矢先に、彼女は火刑に処されて…助ける事が出来なかった。

嘆き悲しみ、しばらくは人を見れば衝動のままに人間を狩っていた父さんは、
彼女がいつか生まれ変わってくるのではないかと思い永い年月をひたすらに過ごし、そして…漸く巡り会えたその彼女がこの時代に生を受けた白鳥深雪…母さんである。

 初めは母さんは前世の事を覚えていなかったようだが、紆余曲折を経て晴れて結ばれて今の私が存在するのだけれども。

時々、純粋な魔性の友達に「貴方はダンピールなのに、魔性の親を憎んだり殺したりはしないの?」と聞かれる事がある。
伝承では、ダンピールは成長したら魔性の親を殺す、もしくはハンターになるとあるけれど。

別段私は憎いと思ったこともないし、ハンターになり、自分に流れる血の片方…
魔性を狩ろうと思った事もない。

別にダンピールが禁忌とも思えない。お互いが想い合って結ばれたのだから。
魔も人間もダンピールもそれぞれ存在してもいいと私は考えている。

それを言うと友達は「変わってる」というのだけれども。
そんな私と友人関係を結んでいる友も同じく変わっていると思う。

 まあ、それはさておき。

いつだったか、母さんに「異端って、なに?」と尋ねたことがある。
その時の母さんの表情が忘れられない…。ちょっと悲しげだったんだ…。

「誰かに苛められた…?」

とまで気遣ってくれた。でも別段苛められたわけではない。
その旨を伝えると普段の穏やかな表情になっていたけれども。

母さんは『時代によって何が正統かそうでないかは変わるから』としか言わなかった。

 時代の流れによって左右される定義。宗教観念の違いで生まれる定義。
異端って、なんて時の流れに…支配勢力の権力に左右される定義なのだろう。

おぼろげで頼りない…明確なものがない曖昧なものだと私は思う。

 …私は迫害されたことがない。だから、こう思えるんだろうか。
私以外のダンピールにもまだ出会ったことはない。
同族や、ダンピールを嫌う魔性や、魔を恐れる人間からしてみたら私はどう映るのだろうか。

 やっぱり『異端』と映るのだろうか。

魔に属する存在の異端とは、人間と契りを交わしたという事なのだろうか。
歴史を見てみると、人は正統なものから外れていると異端とみなしやすいようだけれども。

ではやはり人は魔性と結ばれた存在もそうみなすのだろうか。
『正統から外れた思想あるいは信仰を持つ者・社会的な伝統・権威などに反発しているもの』
という定義とは些か要点が違うように思う。

 …こうして考えてみると、異端とはある種哲学のように思えてくる。
私は、この永い命の中で、答えを見つける事が出来るのだろうか。

2014年1月6日初出(pixiv)
2026年6月9日 個人サイトにサルベージ

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