◇◆◇Rain◇◆◇

 アセリア暦4354年
ザアアアアア──…と、まるで滝のように流れゆくのは、空からの雨雫。
宿泊している宿屋の窓ガラスからは、遠くまで外の景色を伺うこともできないほどの雨水が流れ行くばかりで。

「今日はすごく雨が降ってるね…ミント」
「そうですね、アーチェさん。こう雨足が強くては……」
「この様子では、今日は次の目的地へは出発出来そうにないな」
アーチェ・ミント・クラースは、当分止みそうにもない猛雨をただ眺めるより他はなく。

「店主に尋ねたところ、明日の天気も雨のようです」
すずは先程仕入れた情報を皆に伝えた。

ここ数日、霧がかかったり小雨であったり等、一行の旅路は天候に恵まれずにいた。
昨日も精霊の森へ訪れていたが、雨が降り出し、空を見上げれば雨雲が色濃く、今にも本降りになりそうだったので次の目的地の前にミゲールの町で一泊することになったのだった。

ザアアァァ──……と絶え間なく降り注ぐ雨粒の先には暗く黒く立ち込める雲。ほのかに光ったと思えば、遠雷が響いている。

「雨は嫌いだ………」
「チェスター?」
ひとり呟くチェスターの言葉にアーチェは彼を見やった。

「雨は……今日のような雨は、あの時を思い出す……」
「……そうだね…。
あの時も、こんな風な雨だった……」

クレスも、あの時──トーティスがマルスによって壊滅させられた日を思い出していた。

「やまない雨は無い。
天気は変わりやすいものだ。今日は小休止の日として、それぞれ過ごす事にしてはどうだ?」
クラースは彼等2人を気遣い提案した。

「…やまない雨は無い…か。……そうですね」
「ああ、そうだな…。
サンキュー、クラースの旦那」

喪われた故郷を思いながらも、クレスとチェスターは互いを励ますように背を叩き活を入れる。
二人が互いを鼓舞し合っているのを見、仲間たちはそっと見守る中、雨音は静かに時を刻むのであった。

    2006.06.14 了
    2024.06.26 加筆修正 了

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